Thought of the Day

本業はSE、趣味は万年筆集め、模型作り、ギター改造なおっさんのブログです。

「夕凪の街 桜の国」を読んで(2)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

 

今日は「桜の国」について書いてみます。ネタバレ全開なので改行します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜の国」は舞台が広島から東京に代わり、主人公も石川七波に代わります。「夕凪の街」で皆実が弟の旭から届いたハガキを見ている場面を覚えていると、彼女が皆実の姪であることがわかります。

 

皆実が亡くなった後、広島に帰ることを拒んで親戚の養子になった旭は、実の母と一緒に暮らしていたんですね。

 

「桜の国」は二部構成になっていて、一部は二部の17年前のことが描かれます。七波は祖母(皆実の母)と父、弟と暮らしていて、母はいません。毎日連絡帳に

 

「おばあちゃんは、弟と病院です。お父さんは、会社です。」

 

と書いていて、だんだん書き方が乱暴になっていくのが印象的です。

 

ある日、野球の練習で鼻血を出した(顔面に球が当たった)七波は友人の東子と弟が入院している病院に行きます。喘息で入院している弟の凪生に桜の出前だと集めてきた桜の花びらを撒いて、通院している祖母に叱られます。

 

この場面では祖母が凪生の病状に神経質になっていることがさりげなく描かれています。練習で鼻血を出したことを聞かれた七波がふざけて「目まいがする」と答えた途端、祖母がその場にしゃがみこんでしまう場面も印象的です。

 

その年の夏に祖母は亡くなり、七波は凪生が入院する病院の近くに引っ越すところで一部は終わります。一部では「夕凪の街」との関連性は感じさせない描写になっていて、祖母は後ろ姿だけしか描かれません。二部を読むと、七波が帰宅して鍵を開ける場面など、伏線とは思えなかった場面が伏線だったことなど、いろいろわかります。

 

二部では七波は28歳になり、OLとして働いています。医師を目指す凪生から東子のことを言われても気にしないことおから、引っ越しをきっかけに疎遠になったことが伺えます。

 

二部はゴッドファーザー2と構成が似ていて、七波と若き日の旭(七波の父)が主人公になっています。現代から過去、過去から現代に舞台が変わる描写が巧みで素晴らしいです。

 

七波の悩みは父の挙動が不審になったこと。金使いが荒くなり、散歩すると言って出かけてはしばらく戻ってこなかったりします。ある日、桃を買いにいくといって出かけた父を追った七波は東子と再会して、東京駅まで尾行します。東京に着いた旭は高速バスで広島に向かい、七波は東子にお金を出してもらって広島に向かいます。

 

17年ぶりに会った東子が自腹を切って広島に向かうのは不自然に感じましたが、何故そうしたのかは後でわかります。

 

高速バスの中で、七波は東子と会いたくなかったと独白します。

 

場面は17年前に戻り、寝たきりになった祖母が七波を原爆で死んだ末の娘の友達と勘違いし、「なんであんたァ助かったん?どこへ居りんさったん?」と聞きます。

 

広島に着いた後、旭は年配の婦人の家を訪ねて回ります。ここで「夕凪の街」で皆実を会社の同僚が見舞う場面が活きてきます。ここで登場する年配の婦人方は、皆実の同僚の面影があるんです。

 

旭は父母と三人の姉の墓に桃を供えます。七波が隠れる墓石にも注目です。(皆、1945年に亡くなってます)

 

旭は川沿いに出て、年配の老人(皆実の恋人だった打越)と長話をします。退屈になった七波は東子に連絡を取ろうとして、凪生が東子に宛てた手紙を見つけます。そこには別れの言葉が書かれていました。東子の両親が凪生にもう会わないでくれと頼んだようです。その理由のヒントは

 

「ただ、僕の喘息ですが、環境のせいなのか、持って生まれたものなのかは判りません。」

 

という文章にあります。

 

打越と別れた旭はそのまま川を眺めて、七波も父の背中を見つめます。ここで何もない川沿いの風景が原爆スラムの風景に変わります。整地されて原っぱになった場所はかつて原爆スラムで、皆実達が暮らしていたんですね。

 

実母と暮らすことを選んだ旭は、母のフジミが娘のように可愛がっている戦災孤児の京花と親しくなります。京花は赤ん坊の頃に被曝し、「ピカの毒のせいで頭が足りない」といじめられています。被爆者が受けてきた差別がさりげなく描かれています。

 

場面は現代に戻り、平和資料館から戻ってきた東子と合流します。東子はショックで嘔吐し、仕方なく二人はラブホテルに行きます。ここで、一部で七波が帰宅して鍵を開ける場面と同じような場面が出てきて、17年前に時間が戻ります。

 

帰宅した七波が目にしたのは、大量に吐血して倒れている母でした。

 

ホテルを出た七波と東子は「洋服のフタバ」という店の前を通りかかり、ここでまた舞台が変わります。「フタバ洋装店」の前で大人になった旭と京花は針子募集の張り紙を見ます。ちなみにこのお店は皆実と打越がハンカチを買ったお店です。

 

兄の結婚で独立を考える京花に、家で旭はさりげなくプロポーズするのですが、京花はわからないふりをして去り、フジミは旭をたしなめます。

 

「あんた、被爆者と結婚する気ね?」

 

「何のために疎開さして、養子に出したんね?

 石川のご両親にどう言うたらええんね?」

 

フジミと京花は被曝者が世間でどう扱われているのかを身をもって経験し、フジミは皆実と打越のことを思い出したのでしょう。

 

「なんで、うちは死ねんのかね。

 うちはもう、知った人が原爆で死ぬんは見とうないよ」

 

ここでフジミが手にしているのは、皆実が使っていた髪留めです。作者は「はだしのゲン」のように声高に平和や反戦を訴えません。その静かさがかえって重みを感じさせます。

 

東京に戻るバスの中で、東子は今度は両親と広島に来ると告げて眠ります。七波は独白します。

 

「母さんが38で死んだのが原爆のせいかどうか、誰も教えてくれなかった。

 おばあちゃんが80で死んだ時は、原爆のせいなんて言う人はもういなかったよ。

 なのに、凪生も私も、いつ原爆のせいで死んでもおかしくない人間とか、

 決めつけられたりしてんだろうか。

 私が、東子ちゃんの町で出会った全てを、忘れたいものと決めつけていたように」

 

ここで思い出されるのは、「夕凪の街」での皆実の独白です。

 

「わたしが忘れてしまえばすんでしまう事だった」

 

東京に戻った後、かつて暮らした街に戻り、こっそり呼び出していた凪生と東子を再会させた後、七波は歩道橋の上から凪生の手紙を細かく千切って撒きます。

 

「母さん

見てるんでしょう、母さん」

 

紙吹雪は桜の花びらに変わり、また旭の若い頃に戻ります。この辺りの描写も上手いです。

 

フジミの反対で一度は結婚をあきらめてから10年後、東京への転勤を命じられた旭はフジミを東京に連れていくと京花に話し、「ヨメさんも連れていこうと思ってるんだ」と再度、さりげなくプロポーズします。ほのぼのとした微笑ましいやりとりを経て二人は結ばれます。

 

上京して、夫婦として暮らし始める風景、自分が生まれる前のことを、母から聞いたかもしれないと思いつつ、七波は確かに知っていると確信します。

 

「そして確かに

 このふたりを選んで

 生まれてこようと

 決めたのだ」

 

この場面で涙腺が決壊しました。(^^;

 

長くなりすぎたので続きはまた別途。